地域医療に先進テクノロジーを融合させた医療を
脳血管病は突然に発症し、命を奪ったり重篤な後遺症を残すことがあるため、当センターでは24時間365日体制で患者さんを診療し、難易度の高い病態でも最善の治療をチームで提供できるよう全力を尽くします。
当センターの医師は日常の診察や脳ドックでの診療にも関わり、最新画像診断技術を駆使して近代的かつ科学的な手法で正確な診断を導き出し、永続性・根治性を優先させた開頭手術や血管内治療を安全・確実に実施できるよう協働します。
開頭手術でも血管内治療でも長年蓄積してきた経験と追及に基づいた「技術」を最大限に駆使し、ITやAIを利用した術前シミュレーションや術中映像の画像解析技術、安全を守る電気生理モニタリングなど、先端テクノロジーを取り入れた医療システムを用いて高水準の治療を提供します。
高度脳血管病センターのロゴマーク
「命をつなぐ」ロゴマークに込められた思い
直線と曲線で構成される対称的な二つのモチーフは、様々な事象を表しています。そのひとつが、脳血管外科の顕微鏡下手術で用いられるマイクロ鋏の刃です。非常に小さく薄い2枚の刃が繊細にゆっくりと擦り合わせられる動き、その挟まれた一点から、次の鮮やかな展開が生まれていく様を表しています。
また、この細長い長方形でありながら先端が尖った形状は、脳の血管を吻合(バイパス縫合)するときの下敷きにするシートとよく似た形になっています。細いものだと直径1mm未満の血管を縫う、非常に微細な手技が、脳の機能を助ける即ち患者さんを救う、重要な役割を果たします。
そして何よりも、この二つのモチーフに込めた最も重要な意味は、患者さんの命です。細い先端が接するように向き合い、右肩上がりに連なるこの配列は、患者さんの命を、細い先端の一点で繋げる(=手術をする)ことによって、希望が生まれ、新たな未来が開かれていく様を表現しています。
私たちの高度脳血管病センターにおける熱い思いを、デザイナーの水石公基さんにお伝えし、試行錯誤を重ねていくことでこのロゴマークは生まれました。見方によっては、青空に羽ばたく鳥の翼のようでもあり、希望があふれ出てきます。
一方で、これを単一の物体とみなせば、その輪郭は、凛とした直線と緩やかに波を描く曲線とが折り重なった形になっています。力強さと繊細さの融合、ゆるぎない信念と優しさの融合、それはまさに、私たちが目指す医療の姿そのものです。
脳血管病とは
対象となる疾患 ・ 当センターにおける診断と治療の特徴
脳動脈瘤
未破裂脳動脈瘤が発見された患者さんには、まずはじっくりと説明させていただき、時間をかけて考えてもらうことを重視しています。個々の患者さんごとに、動脈瘤のサイズや形状、部位などの条件をきめ細かく精査したうえで、治療の必要性とリスクを深く理解していただき、方針を一緒に考えていくことを大切にしています。
通常の動脈瘤は、その特性に応じて、開頭手術か血管内手術かを選択して治療します。開頭手術の場合は、クリッピング術が基本的な治療法ですが、一口にクリッピングと言っても、動脈瘤の形状は非常に複雑です。正常血管をしっかりと温存しながら、動脈瘤を裾野まで完全に消滅させて高い根治性を得るために、どのような形状のクリップをどの方向で幾つ使って処置するか、そこに深い拘りをもって行っています。血管内治療も新しいデバイスが次々と出現し、進歩を続ける治療法です。開頭手術チームと血管内治療チームとで常に検討を重ねながら、ベストの治療を患者さんに提供します。
動脈瘤には、巨大なサイズや部分血栓化など、通常のクリッピングやカテーテルでは治療できないものも存在します。こうした場合は、頭皮の血管や腕の血管などを用いたバイパス術と組み合わせることで治療を実現します。手術の確実性と安全性を高めるために、AR(仮想現実)ナビゲーションや術中顕微鏡下蛍光血管造影による血流解析など様々な機器を駆使して信頼性の高い治療を展開しています。
近年では、他施設を含め過去にカテーテルで治療された動脈瘤が再発した患者さんも散見されるようになってきました。こうしたものに対して手術できちんと根治してさしあげることも私たちの任務だと思っています。
脳動静脈奇形
脳動静脈奇形も、破裂した場合にはクモ膜下出血や脳内出血に至る疾患です、疾患自体の発生頻度は動脈瘤よりも少ないですが、実は破裂率は一般的な脳動脈瘤よりも数倍高いことが示されています。破裂の予測ができないことは脳動脈瘤と同様であり、摘出手術を行うか経過観察するか、或いは放射線治療の選択肢はどうなのか、これもしっかりと精査吟味したうえで、患者さんとじっくりと話し合い、方針を見定めていくことを大切にしています。
近年、手術道具の発達と技術の進歩、および術前血管内塞栓術の活用などによって、脳動静脈奇形手術の安全性と確実性は飛躍的に向上しました。私たちはとくに、極力無血でコントロールしつつ精彩に境界の剥離を完遂することに努めています。
脳動静脈奇形の部位や特性は様々であり、脳の重要な機能を担う部分に隣接した病変の場合は、術前の慎重かつ精細な検討が重要になってきます。脳の神経連絡路を示すMR-tractographyや脳の活動部位を示すfunctional MRI、3D-printerモデルによる術前シミュレーションなどを駆使して、綿密に術前計画を練って臨んでいます。
脳動脈閉塞症・もやもや病
加齢に伴う動脈硬化性変化によって脳の主幹動脈が狭窄ないしは閉塞してしまっている患者さんや、もやもや病の患者さんにおいて、脳の血液循環が著しく低下しているかたの場合は、内科的な治療だけでは脳梗塞の発生を防ぎきれない可能性があるので、これを防止するために、頭皮の動脈を脳の動脈に繋ぐ(吻合、バイパス)する手術が行われます。
バイパス手術は、脳の血管を一時的に遮断して切開し、そこに頭皮の血管を14~18針ほど縫合します。いかにして、滞りない作業で遮断時間を短時間に収めつつ、丁寧で且つ血管壁を傷めずに、ふっくらとした形状で十分に広い吻合間口を造り上げるか、そこには数えきれないほどの配慮に満ちたノウハウが込められています。
併せて、バイパス手術をより確実に安全なものにするために、術中の脳表血流解析や血管自体の血流測定などを駆使して、バイパス前後の適切な状況把握を綿密に行っています。
頚動脈狭窄症
これもやはり動脈硬化を基盤に発生する疾患です。すでに顕著な狭窄によって脳の血流が低下して症状を起こしているかたや脳梗塞を起こしかけているかた、狭窄部の血栓が飛んでいくことによって小さな脳梗塞を起こしたかたなど、状況は様々です。或いは、無症状ながらも狭窄度が高く、脳梗塞の発生リスクが高まっているかたもいます。それぞれの状況に応じて、内科的治療では本格的な脳梗塞の発生を予防しきれないことが予想される場合、手術(頚動脈内膜剥離術)もしくは血管内カテーテル術(ステント留置術)が選択されます。内膜剥離術はどのような条件であっても確実に治療を完遂できるものですが、一定の条件下であればステント留置術も選択できます。
頚動脈内膜剥離術においては、私たちは高い位置の病変にもきちんと対応し、クリアな術野で高い視認性のもと、全例内シャントチューブを用いて脳血流を確実に確保しながら、精細で滑らかな内膜剥離断端処理と整った動脈縫合を常に大切にしています。